香港便り 1997年6月30日
- 熱烈慶祝香港回帰祖国 -

(前書き削除)

いよいよ6月30日です。返還5連休の3日目でもあります。
表題の熟語は、セントラルにある中国系の中国銀行本店ビルに高々と掲げられた標語です。今の日本人だったら素直に使うことをためらうのではと思える様な時代がかった内容ですが、繁華街を歩いていて一般の商店が同様の横断幕を掲げているのを時々見かけます。

中国銀行本店に隣接して英国系の香港上海銀行本店の巨大なビルがそびえていますが、こちらには少し違ったのが掛かっていて“興悠並肩遇向明”とあり、副題として下に英文で“Your Future is Our Future” と書かれています。中文、英文とも難解ですが“回帰”および“祖国”を避けており何か含蓄がありそうです。両行とも香港で一二を争う銀行で背後にはそれぞれ中英の政府が控えていますので、こういう所でも両政府間の火花の飛ばし合いをやっているのでしょう。

一方、当の香港人達はどうかと言うと新旧統治者間の努力を傍目に無関心を決め込んでいるように見えます。うちの会社で秘書をしている香港娘などは連休を利用してオーストラリアだかに旅行に出てしまいました。この歴史的貴重な瞬間に香港から脱出するとは非国民の様な気がしますが、この間の海外旅行はポピュラーなようで、香港人の間では返還時何処に旅行するかを尋ね合うことが最近では一種の挨拶みたいになっています。現実には独身貴族の香港娘は少数派で、家で麻雀をするかテレビを見ると言うのが大方の過ごし方のようですが。

そう言えば先日ビデオテープを買いに近所の電気屋に行ったら、ビデオテープが飛ぶように売れていてテープを手にした老若男女が列を成しておりレジでだいぶ待たされました。連休は麻雀に明け暮れ、テレビの方はビデオに撮っておいて後で早送りでポイントだけ見る、と言う作戦なのでしょうか。

私の方は、昨日の日曜日は街の様子を見るためと6月30日、7月1日に予定されている花火見物の下調べのため、湾仔(ワンチャイ)、セントラル方面をうろうろ歩き回っていました。その時に表題の“熱烈慶祝香港回帰祖国”をみつけたわけです。

街の表情は普段のそれと大して変わりが無くタクシーが車のアンテナの先に香港の新しい旗(香港特別行政区のロゴ)をつけて走っていたのが目につく程度で、特別の飾り付けや商店のセールなど殆ど見かけず新旧正月の時のような賑やかさはありません。お祭りごとと言うより冷静に厳粛に過ごそうとしているのでしょう。

連休第一日目の土曜日は映画を2本見ました。映画の一本目は“鴉片戦争”、もう一本は“迷失世界”です。両方とも前評判高く、ごく最近、この一週間以内の封切りですが、香港人の反応が対照的です。“迷失世界”は原題が“ Lost World ”でジュラシックパークの続編、私のアパート近辺だけでも3館で上映しておりしかも切符売り場は朝から長蛇の行列でした。一方“鴉片戦争” (中文では阿片のことを鴉片と書くようです)はコーズウェイベイ、ワンチャイ地区ではアパートから遠く離れた一館でしか上映しておらず、しかも昼の12時からの部を見たせいか場内では閑古鳥が鳴いていました。中国、香港、台湾の合作で、わざわざこのタイミングを待って封切ったと言う話題作なのですが受けが今一つの様です。よく出来た映画だと思いますが、作った側の力が入りすぎているのか見ていて神経が疲れるのと、香港人にとっては「今更歴史のお勉強など・・・」という気持ちがあるのでしょうか。

“迷失世界”については実は今回見たのは二回目です。一ヶ月ほど前、ビデオCDの海賊版が電脳街に並んでいるのを見てつい買ってしまいました。驚いたことに香港では封切り前から海賊版が出回るのです。

他の映画3本と合わせてHK$100でしたので1本あたりHK$25で400円弱ですから格安のお値段といえますが、品質が劣悪で全体に画像が暗くて見にくく、時々ピントが外れたりセルラ電話の呼び出し音と思しきプルプルという音がまじったりでひどい物でした。米国あたりで映画館にビデオカメラを持ち込んで撮影したようです。ピントがボケた時中文の字幕スーパだけはボケずにちゃんと残っていましたからビデオ撮りの後で字幕を重畳したのでしょう。米国での封切りからそんなに時間が経っていませんから、台詞の中文版の入手から、撮ったビデオをCD用デジタル信号に変換してCDの原盤の作製、大量プレスといった一連の工程を短時間でこなせる技術を持っているということで、大したものだと思います。並みの海賊ではなくハイテク海賊と言えます。米国が海賊達の販売基地になっている香港の電脳街を目の敵にして、躍起になって圧力をかけて来るのが肯けます。アヘン戦争ならずソフト戦争で、今度は中国側が加害者です。なお、他の3本はちゃんとしたコピーでした。

(以下削除)

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