黄金の椅子に座るボリビア 1984年1月
社内誌への投稿記事
2年間のボリビア勤務を終え先日帰国した。出発前のボリビアの印象は、年中行事のようにクーデターをやっている国、インカ帝国の末裔インディオの住む国、鈴や銀を産出する鉱山国、富士山より高い所に首都を持つ国などで大変な未開の国を想像していた。現実はそれほど厳しくはなく、首都ラパスに着いて立ち並ぶ近代的な高層ビルや街を走るトヨタやボルボに驚いた。
また、ドロボーも歩いて逃げるなどと脅かされ高山病を心配していたが、サッカーをして走り回る子供達やドロボーのすばらしい逃げ足を見て大いに安心もした。
この紙面をお借りして、この国ならではの話などを紹介したい。

標高3800mのラパス市。
人口100万と言われている。

ラパス市-坂の上まで建てられた
土壁とトタン屋根の民家。
1.遠くて近い仲、ボリビアと日本
ボリビアは南米大陸のほぼ中央に位置し、ブラジルやチリ等5カ国に囲まれた内陸国である。第二次大戦後いち早く日本から移民を受け入れた国で、1万人近い日系人が住む。日本からの技術協力も熱心に行われており、その内容も通信、稲作、鉱山、宇宙線研究、魚の養殖、病院建設、鉄道などと多彩である。
ボリビア人にとって日本は極東にある神秘の国というイメージはなく、マスコミや日本製工業製品を通じて身近な存在になっている。反面、日本に関する正確な知識を持っている人は極めて少なく、一般的にはアメリカ合衆国の隣接国ぐらいの認識しかないようである。
2.「ラパス電電太郎」の宛名で届く郵便事情
この国にはポストがない。手紙は郵便局まで出しに行く。また、市の中心部以外は配達をしないので、大半の人々は、そろそろ便りが来る頃だなと予感したら郵便局まで取りに行かなければならない。郵便物は受取人の頭文字で分類されており、局員に氏名を告げると探し出してくれる。従って郵便局はいつも混雑しており市の社交場の役割も果たしているようである。
3.自動化率100%の電話事情>
大都市の電話は、途上国にしては比較的良く整備されており、市内や大都市間の通話はほぼ100%自動化されている。好天に恵まれれば通話品質も合格である。歴史も古く、ラパス電話会社では43年前に導入されたスウェーデン製のSxS式交換機が今もカチカチと音をたてている。
料金制度は、一部の地域を除き月別定額制をとっており、市内通話料は通話度数によらない。おしゃべり好きなこの国のこと、長電話が多く幾度か迷惑をこうむった。
普及率は100人当たり2.7台で、南米諸国では最低の部類に属す。都市部を離れると無電話地帯であるが、運が良ければプレストーク式短波トランシーバを置いた通信所があり、一部の都市の一般電話に接続してくれる。
運営体は幹線伝送路を持つ電気通信公社と市内サービスを受け持つ17の電話会社に分かれており、早くから競争原理が導入され民間の活力が活かされている。

アンデスの高原に住むリャマ。
標高4000mの高原で地平線が見える。

遠くに蜃気楼。
4.商売熱心な電波監理当局
この国では電波の使用に対して使用料を取る。これが当局の重要な財源となっているため、最近まで無線局の免許を乱発してきた。特に中短波帯はひどく、ラパス市内には40を超えるラジオ放送局があり、混信の見本市と化している。
5.黄金の椅子に座る楽天乞食
ボリビアは、黄金の椅子に座る乞食などと自称しているように、豊富な天然資源を持ちながら数字の上では大変な貧乏国である。特にここ2~3年GNPをはるかに超える対外債務をかかえ、建国以来最大と言われる経済危機に陥っている。現地通貨であるペソが大暴落し、この2年で対米ドルのペソ価が20分の1になってしまった。物価はロケットの様に上昇を始め、ドルで借金をしていた人は借金が20倍になり、ペソで預金をしていた人にとっては、その価値が20分の1になったのであるから事態は深刻である。日本大使館のある人が、ここまで来て暴動がおきないのが不思議であると言っていたが同感である。
傍観者達の心配をよそに当事者達は楽天的である。街行く人々に暗さはなく、職場ではこの大ピンチを逆に小話の材料に使い笑いが絶えない。何事もこういう風で悲壮感がまるで無い。不幸を笑い飛ばし新たなエネルギーを生み出そうとするこの気質は南米人の長所と言えよう。

サンタクルス州のジャングル地帯
置局調査中、鉄橋をジープで渡る。
6.感心したこと
住んでいたアパートの水道のパッキンを取り替えようとしたことがあった。古くなったパッキンを手に新しいのを買い求めたが売っていない。数店まわった後、ある金物屋の若い店員が次のように教えてくれた。「そんな物はどこにも売っていないよ。磨り減ったゴムの部分を削り取って替わりにホースなどからゴムを切り取り、それをはめ込んで修理している。」
はっとして、こんな簡単なことに気がつかず部品不良すなわち交換と短絡思考をした自分を恥じた。
さっそく帰って修理すると、女中が、さすが日本の技術はすばらしいと感心する。これはおたくの国産技術だと秘密を明かしたところ彼女はキョトンとしていた。